F1のパワーユニットは、ターボエンジンに2つのモーターを合わせたハイブリッドとなっています。クランクシャフトに繋がったMGU-Kとタービンに繋がったMGU-Hがあり、それぞれ電気エネルギーの出力と回生(発電)を行います。
2020年第8戦イタリアGPより、エンジンマッピングシングルモードが発効されERSの重要度は更に増しています。
今回は簡単にERSをどのように使っているのかを確認しておきましょう。本当に簡単にです(笑)
パワーユニットERSエネルギー規定
ES(SOC:充填状態の最小と最大の差が4MJ)、MGU-K(120kw)、MGU-H(無制限)
- ES⇒Kはラップあたり4MJ
- K⇒ESはラップあたり2MJ
- Hは双方向に無制限
J(ジュール)は仕事量のことで1Wを1秒間使うと1Jとなり、ES全てのエネルギー4MJ(=4000kJ)を、120kwのMGU-Kで使用すると33.3秒(4000/120)となります。
ERSの稼働(素人Jinによる超簡単な設定)
仮にMGU-Hを70kwとして、2020年スペインGP予選におけるフェルスタッペンのスロットルとブレーキ操作に、当てはめてみました。
No | Point | SPD | Time | Int | MGU-K | MGU-H | SOC | ES⇒K | K⇒ES |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | T16 | 193 | -6.00 | 0.00 | 0 | 0 | 4,000 | ||
2 | S | 287 | 0.00 | 6.00 | ▲ 720 | 420 | 3,700 | 300 | |
3 | T1 | 318 | 8.72 | 8.72 | ▲ 1,046 | 610 | 3,264 | 436 | |
4 | T1b | 167 | 10.40 | 1.68 | 202 | 3,466 | 202 | ||
5 | T1full | 164 | 11.28 | 0.88 | ▲ 62 | 3,404 | |||
6 | T4 | 290 | 21.48 | 10.20 | ▲ 1,224 | 714 | 2,894 | 510 | |
7 | T4 b | 168 | 23.60 | 2.12 | 254 | 3,149 | 254 | ||
8 | T4 full | 178 | 24.64 | 1.04 | ▲ 73 | 3,076 | |||
9 | T5 | 257 | 28.60 | 3.96 | ▲ 475 | 277 | 2,878 | 198 | |
10 | T5 b | 113 | 31.00 | 2.40 | 288 | 3,166 | 288 | ||
11 | T5 full | 142 | 32.28 | 1.28 | ▲ 90 | 3,076 | |||
12 | T7 | 265 | 36.88 | 4.60 | ▲ 552 | 322 | 2,846 | 230 | |
13 | T7 b | 180 | 38.40 | 1.52 | 182 | 3,029 | 182 | ||
14 | T7 full | 180 | 39.16 | 0.76 | ▲ 53 | 2,975 | |||
15 | T10 | 309 | 49.60 | 10.44 | ▲ 1,253 | 731 | 2,453 | 522 | |
16 | T10 b | 86 | 52.56 | 2.96 | 355 | 2,809 | 355 | ||
17 | T10 full | 130 | 54.60 | 2.04 | ▲ 143 | 2,666 | |||
18 | T12 | 209 | 56.84 | 2.24 | ▲ 269 | 157 | 2,554 | 112 | |
19 | T12 b | 143 | 58.36 | 1.52 | 182 | 2,736 | 182 | ||
20 | T12 full | 165 | 60.64 | 2.28 | ▲ 160 | 2,577 | |||
21 | T13 | 223 | 62.44 | 1.80 | ▲ 216 | 126 | 2,487 | 90 | |
22 | T13 b | 161 | 63.92 | 1.48 | 178 | 2,664 | 178 | ||
23 | T14 | 174 | 65.36 | 1.44 | ▲ 101 | 2,563 | |||
24 | T14 b | 88 | 67.44 | 2.08 | 250 | 2,813 | 250 | ||
25 | 15 full | 133 | 69.88 | 2.44 | ▲ 170 | 2,643 | |||
26 | F | 285 | 76.32 | 6.44 | ▲ 773 | 451 | 2,321 | 322 | |
計 | 2,592 | 1,783 |
※bはブレーキタッチ時間、fullはフルスロットルになるまでの時間
- MGU-K(120kw):緑背景のフルスロットル区間ではフルパワーで使用、赤字のブレーキタッチ時間はフル回生
- MGU-H(70kw):緑背景のフルスロットル区間ではフル回生、スロットル操作無しや調整中はフルEブースト状態
- フルスロットル区間で回生したMGU-Hのエネルギーは直接MGU-Kで使用、不足分はESより
- SOCの最大値4MJは最終コーナーに設定
各部の損失を0とした場合は、上の表のように2.3MJもエネルギーが残ってしまいました。
予選ラップにおいてエネルギーは使い切っているはずなので、実際は損失が2.3MJあるという事になります。ハイブリット車のモーターで損失は5%だと見た事あります。MGU-Kを120kwにするためには+5%のエネルギーが必要になり、回生では-5%のエネルギーしか得られないという事になるでしょう。
ES(バッテリー)も放出時に損失が大きいようなので、そのあたりを考慮しなければなりませんが、電気素人にはちょっと無理です(笑)
次に、実際の稼働状態を見てみましょう。
ERSの稼働(2017年ベルギーGP予選:ホンダPU)
オレンジが2016年、ブルーが2017年の稼働状態を表しています。
MGU-Kのグラフは上に張り付いているのが出力している時、MGU-Hのグラフが下に張り付いているのが回生をしている時、上になるところはタービンを回すEブーストになります。
真ん中あたりにあるグラフは雑誌では記載がないですが、十中八九SOCです。
ケメルストレートではKをほぼフルパワーで使用しているのでSOCは減少していきます。最終シケイン手前ではSOCが増加しているのでKはHの回生以下の出力となるでしょう。
低速になった後で、MGU-HのEブースト・MGU-Kの出力でデプロイを消費して一気にSOCが減少しています。ラップタイムを押し上げるのは、いかにして低速走行を減らすかなので、理にかなったデプロイの使用方法です。
まとめ
このように複雑なERSの稼働をさせています。
これらは全てERSマッピング(デプロイメント)で、ラップあたりどこでどのように稼働させるのかプログラミングします。マシンはGPS受信できませんので、ドライバーの操作(ギアポジションなど)・速度から走行距離を算出し今どのターンにいるか判断しています、そしてコントロールライン通過でリセットされます。
ステアリングには、SOCダイヤルやOTボタン(オーバーテイク:Kの出力を上げる)があり、エネルギーデプロイメントを切り替える事が出来ます。
市販車のようにアクセルやブレーキ操作の仕方から、出力や回生の全てを自動制御しているわけではないのです。
今回はERSについて、デプロイとSOCに関する事が、読者様の知識補完に少しでも役立てれば幸いです。
用語解説
- ERS:エネルギー回生システム(Energy-Recovery System)
- ES: バッテリー(Energey Store)
- MGU-K:運動エネルギー回生モーター(Motor Generator Unit Kinetic)
- MGU-H:熱エネルギー回生モーター(Motor Generator Unit Heat)
- SOC:充電率または充電状態(State Of Charge)
- デプロイ:エネルギーの事(deploy)、IT関連デプロイメントのF1造語
フェルスタッペンに続発したトラブル、フェルスタッペンの操作によってトラックのどの位置にいるか見失ってしまうプログラム上のバグの可能性はないですかね?
フォーメーションラップ⇒スタート以降
ここでモードを切り替えるんですが、田辺さんのインタビューではフォーメーションラップから問題あり。
https://www.as-web.jp/f1/624522?all
レコノサンスラップでストールしそうになっている。
グリッドでカウル開けて何らかの作業。
スタートでのリアライト点滅はパワーユニットと関係無い???
マシン側の何かのトラブル、例えばセンサー系など⇒センサーからのデータが無く⇒勝手にセーフモードへ
色々な事が考えれる。排気センサーの故障を無視して勝った2019オーストリアの事例もある。
得られるはずのデータが無い時に、起こる想定など、
大まかに言えばソフトウェアのデータ不良の一言で済んでしまう。
予選でのガスリーのデプロイ切れは乗り方を変えたから発生したようです。
微妙なことでも影響が出でしまうのですね。
これはエネルギーマネージメントのセッティングは複雑で難しそうですね。
メルセデスはこの部分のソフトが他より優れているのでしょうか?
メルセデスはどんなところも優れています。年々弱点を克服していって確実に速くなっていく、恐ろしいチームです。
マシンが出来上がってて、実走とシミュレータとの相関が完璧。
事前のシミュレータ作業で、ほぼセッティングが完成しているのでしょう。
サポート部隊も素晴らしく、実走データをリアルタイムでファクトリーへ送信、解析作業と最適化を行います。
金⇒土で更にセッティングが出来上がっていく。
あえて弱点と言うと、
グリッドでポールポジションまたはフロントローで、そのままトップをキープしたレースばかりしているので(前方を遮るモノが無い?)
イタリアGPの様にハミルトンがペナルティ受けポジションダウンしたり、ボッタスが中団グループに巻き込まれると本来の性能を発揮出来ないくらいでしょうか?
それでもハミルトンは上手く挽回しましたが、ボッタスが?
トップを走る前提で、タイトなマシンパッケージを追及している?
その点、同じメルセデスPUを搭載しているウィリアムズは、ほぼ最下位(今シーズンは、上位を走る場面多いです)なので、
冷却系かなり余裕を持った(サイドポッドのボリュームが大きい)パッケージです(^.^)
ハミルトンは、F1デビュー(マクラーレンでスタート)以来ずっと
メルセデス製エンジンやPUでレースをしてきて、他メーカーPUでの経験が有りません。
来シーズンもメルセデスワークス残留は間違い無いですが、
引退するまでに他メーカーも経験して欲しいものです。
(一時フェラーリ行きの噂もありましたが)
レース中のファクトリーの方はコスト制限とか無いのですかな?
データ送って解析とか禁止になれば下位チームも少し楽になるかも。
コスト制限がかかるのは、主にチーム全従業員の人件費とマシン製造費です。
トップチームではそのような部分は縮小するかもですね。
JIN氏の各コメントを参考に(例)空力のための風洞(Wind tunnel)シミュレーションで例えると、実戦トラック走行で想定される可能な限りの可能性を導き出し対応及び準備し終える。しかし、リアルな実戦トラック走行や各トラック特性によりシミュレートでは想定出来なかった点がプレシーズン・テストやシーズン開始後に表れる場合がある(とのこと)。
そして、PU One mode化開始までに、同様な経緯でセンサー含むCEやCEと各ECUとの相互性etcのためにプログラミング&マッピングの準備をし終えたが、それ以上に想定外があり、PUの構造及び物理的には直接問題無いが、(過剰に?)セーフモードが作動したが解除出来なかった。と理解しました。ただし、MAX選手のみ連続発生しているため上述のみでは説明し切れていない。(´・_・`) レースペースの為というより、それ以外の1度作動してからスローペース時の熱etcに対し何かしらミスジャジしてしまっている…?
ホンダは、カスタマー供給経験がなくベースラインが伴ってないと思うんですよね。
それだけドライバーに合わせて親身に対応してきたって事なのでしょうけど。
マックスはシミュレーションを簡単に超えるようですし。
想定外なのはマックス自身です(笑)
https://www.autoracing.com.br/corrida/adauto-silva/
ホンダが原因調査中なので、はっきりした事を言えないですが、
マックスだけに起こっている(アルボン、ガスリー、クビアトには起こっていない)を考えると、
マックス特有の扱い方にホンダPUが対応し切れていないのか?
アルボン、ガスリー、クビアトにも起こるトラブルだったのか?
(マックスがリタイアした2戦で、イタリアGPのガスリー初優勝とトスカーナGPのアルボン初表彰台だっただけに辻褄が合わない?)
PU自体そのものの問題とは思えないのですが、
はっきり原因が分かり対策に目処がつくまでは
今週末から始まるロシアGP、万全のため3基目投入するのでは?
同じメルセデスでも、
ハミルトンの方がボッタスよりもPUの扱い方が上手い様に思います。
(ハミルトンがチーム在籍長くメルセデスを知り尽くしているからなのか?要領が良いのか?)
レーシングポイント、ウィリアムズ、それに来年からマクラーレンもカスタマーとして加わるのでPUデータも豊富?
来シーズン、メルセデスPUユーザーに変わるチャンピオン経験者のベッテルと優勝経験者のリカルドが、どうPUを使いこなすのか?
また2年のブランクで久しぶりに復帰するアロンソが、ルノーPUで
ルノーワークスに初優勝をもたらす事が出来るか?
画像のメルセデスPU、
MGU-Hは、プレナムチャンバーが覆って見えないですが(^.^)
クランクケース右側にMGU-K本体が装着されていますね。
それを避ける様にエキゾーストパイプ取り回しされている。
左側は、MGU-K無いので取り回しは非対称でしょうね。
RBのMateも言ってますが、ホンダを待つしかない、推測する必要はない。(電子系&ソフトは専門家にしかわからない。)
ハミルトンは自ら言ってましたが、PUの使い方は得意分野だと。
シングルモードでそれを失うのは優位を失うとインタビューで答えています。
Reコメントありがとうございます。
“Hamilton x Verstappen, o veredicto評決 atual 現在” 目を通しました。チーム・シミュレーションから得られた設定を超えるMAX選手(笑)、本当Honda’s PUのマシンを駆ってくれていている縁が幸いです。また、Arch-Rival 両雄の天才共に、マシンを駆る時意外の時間も、チームエンジニアとの関係を含め誰よりも有効(努力)な時間を過ごしている(解析~信頼関係~自身の努力)ことも解りました。また、HAM選手はNiki氏と居たかけがえのない時間もありますが、追い掛けられ続ける側のプレッシャーの中、結果を出し続けることは確かに凄い。
確かに、言われる通り。
ハミルトンはPUだけで無く、チームメイトのボッタスをも上手く利用する(ボッタスには失礼)
ハミルトンのレース勝ちっぷりは、2位ボッタスを従えてトップチェッカーするのが多数(予選でポールをボッタスに譲っても)
いくつかのレースで、ボッタスの方が調子良く優勝した時は、2位や3位でゴールすることも厭わない(ドライバータイトルを考えて)
まるで往年のプロストやラウダのような戦い方?ある場面ではセナのような?
今シーズンのハミルトンに対峙出来るドライバーは、
当初マックスとボッタスでしたが、
この状況では、唯一同じマシンを使うボッタスに限られてきますが、
ボッタスも難しいです?
今のメルセデスは、雰囲気が1992年ウィリアムズのマンセルとパトレーゼに近く、決してマクラーレンのセナとプロストとは違う。
画像のメルセデスPU(2019年W10仕様)
以前と比べて両バンクからタービンに導くエキゾーストパイプの接続が、かなり変わりましたね(^.^)
クランクケース後端部クラッチ板が半分隠れるぐらいに低い位置(黒いカバーで覆われてる部分)で接続している?
以前は、高い位置で左右バンクから別々に配管接続でしたね。
片バンク3in1でまとめて、さらに両バンク分を1箇所にまとめてからタービンハウジングケースに接続している様子?