過去にあったF1技術に迫る!今回はマスダンパーについてです。

 

Mass Damperは2005年ルノーRS25に搭載された、路面の凸凹や縁石乗り上げ時のマシンの上下動を抑制するシステムです。

上下に動くスプリングに支えられた重りは、ノーズセクションに取り付けられ、フロント全体を安定させる事ができた。

 

総重量10kgにも及ぶMass Damperは、重心位置が上昇する、マシン最低重量のクリアなど、ネガティブな要素が多いものの、シルバーストンで約0.25秒のゲインがあったと言われている。

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Mass Damperの原理

Wikipediaの説明は以下

  • 振動する対象物に、補助的な質量体をばねなどを介して付加することにより、対象物の固有振動数周辺での共振現象を抑制する装置のことである。
  • 補助質量体が対象物の振動を肩代わりして振動することで、対象物が振動しないようにする装置である。

 

 

工業学的には「Tuned Mass Damper」と言われるもので、高層ビルなどの横揺れを抑制するために使われています。

この動画のものは、F1で使われていたものにかなり近いと思われます。

訳の分からない周波数の数式を見るよりは、非常にわかりやすい動画だと思います。

 

 

Tuned Mass Damperの断面図

https://mooregoodink.com/

Tuned Mass Damperはこの様な機構のものです。

ルノーの場合、質量ディスクをシリンダー側面にぴったりと合わせ、空気の動きをスプリングの減衰媒体に使用しました。

 

レーストラックごとに最適な5kg、7.5kg、10kgの質量を選択し、各ユニットごとにスプリングレートも調整していました。

 

Mass Damperの効果

縁石乗り上げ時のフェラーリとルノーの比較動画です。フロントウィングの動きに注目して下さい。

 

F1マシンの空力はフロントから始まる。

マスダンパーを搭載したルノーは空力安定性に優れ、タイヤに優しく、他よりダウンフォースレベルを低く保つことができた。

 

ルノーはパワーで劣っていたが、ドラッグを少なくでき最高速をカバー、加えて燃料消費を抑えることができた。

 

2006年にはリアにも同じようなもの(前後方向に振り子回転するダンパー付きの重り)を取り付け、無類の強さを発揮したが、可動空力装置にあたるとしてトルコGP以後禁止された。

まとめ

2005、2006年アロンソの2年連続チャンピオンにもっとも貢献したと思われる「Mass Damper」です。

予算の少ないルノーチームが、フェラーリで5年連続チャンピオンだったシューマッハを止めた快挙にふさわしい、F1とんでもメカでした。

 

マクラーレンがFIAに働きかけ、「全てのパーツはマシンに固定されていなければならない。」などと言われる可動空力装置に認定されてしまいお蔵入りになったのが当時の話題でしたね。

 

Mass Damperは、ある特定の振動周波数を消し去る事ができるものです。2020年の今現在では、ヒーブサスペンションに組み込まれたイナーターダンパーがこの役割を担っています。

イナーターとは?

正直、わかりやすい説明をする自信がありませんので動画をご覧下さい。

一番右についてるのがイナーターで、入力を回転方向に変換しているようです、動画後半の微振動で揺れが少なくなっているのがわかると思います。この機構をダンパーに取り入れたのがイナーターダンパーと言われるものです。

イナーターに関するマルコム・スミス教授の論文