2014年より導入されている現行のF1エンジン規定をわかりやすく解説していきたいと思います。いまさら聞けないハイブリッドの仕組みなども踏まえて、パワーユニット(PU)と呼ばれるエンジンの概要を知り、どれだけ高度な技術を競っているのかを知りましょう。
F1パワーユニットの概要
- ICE(内燃エンジン):1,600ccV型6気筒ターボエンジン
- TC(ターボチャージャー):排気タービンとコンプレッサー
- MGU-H(熱エネルギー用モーター):ターボチャージャーに直結されたモーター
- MGU-K(運動エネルギー用モーター):エンジンのクランクシャフトに直結されたモーター
- ES(エネルギーストア):ハイブリッド用バッテリー
- CE(コントロールエレクトロニクス):発電エネルギーを管理するコンピューター
F1パワーユニットはこの6つのコンポーネントに分類されています。簡単に考えれば街中を走っているハイブリッドカーのエンジンをターボにして、ターボチャージャーにモーターを足したと考えて下さい。
2014年にルノーが作った非常にわかりやすい動画を見ると何となくシステム全体がわかります。字幕ONして設定で自動翻訳すると意味は伝わってくると思います。
エネルギー回収システム
ハイブリッドであるF1パワーユニットは、エンジンやタイヤの回転力で発電する事と、ターボチャージャーの回転力で発電する事の2つのエネルギー回収システムが存在する。
ハイブリッド用モーターの簡単な説明
ラジコンやミニ四駆などに使われる直流モーターは、逆に回転させると発電する事ができます。しかしハイブリッドカーにおいてはそんな事はしていません。わざわざギアを使って逆回転させている訳ではないのです。
ハイブリッド用モーターは3相交流モーターと言われるもので、回転する方向は常に一緒(右回り)だけど、出力する事と発電する事ができます。(詳しい機構は省きますね、そういうモーターが存在すると解っていただければとりあえずOKです。)
MGU-Kによる出力と発電
エンジンのクランクシャフトに直結されたMGU-Kは加速する時に最大で163psを発生します。(インバーターにより出力調整可能)一般的なハイブリッドカー同様にブレーキング時はタイヤから伝わる回転力がギアボックス、エンジンを通してモーターまで伝わりそれにより発電しています。
この発電負荷は発電量により変化しますので、リアブレーキにかかる減速の力が変動してドライバーには調整不可能となる。よってリアブレーキは電子制御されています。(ブレーキバイワイヤ)
MGU-Hによる発電とEブースト
ターボチャージャーに直結されたMGU-Hはタービンの回転力で発電します。そしてこのモーターを出力に稼働すればタービンを強制的に回しターボの効き目を早める事ができます。
特にアクセルオフからオンに切り替えた時は排気ガスが少なくタービン回転数が足りません(ターボラグ)、そこでモーターを回し回転数不足を補うEブーストを行います。タービンと直結されたコンプレッサーも回る事で圧縮された空気をエンジンに送る事ができます。
※このF1ハイブリッドエンジンの最大の特徴は、一般的にまだ普及していないターボチャージャーの電動化とそれを利用したエネルギーの回収システムがある事です。
パワーユニットのエネルギー規定
- ES⇒Kはラップあたり4MJ
- K⇒ESはラップあたり2MJ
- Hは双方向に無制限
加速時は、Eブースト⇒タービン回転数の上昇⇒タービンによる発電⇒MGU-Kによるパワーアシストと言った一連の稼働をさせています。
減速時はMGU-Kによる発電が主な稼働となりますが、規定で定められたエネルギー量2MJをバッテリーに送る事はほとんどのサーキットで足りないようです。(ブレーキング時間が短縮されているため)
最大限のパワーを発揮する条件
このパワーユニットが最大限にパワーを発揮するには、エンジン・MGU-K・MGU-Hが出力稼働状態にある時です。
- エンジンに対する燃料供給が最大になるのは回転数10,500rpm以上の時(約750~800ps)
- MGU-Kの最大出力(163ps)
上記2点の項目は誰でも理解できるポイントでしょう。しかしターボエンジンにはタービンにかかる排気ガスの抵抗が存在します。これを取り除くにはタービンにあるウェイストゲートバルブを開けて、排気を多く逃がす事で抵抗を減らす事が出来る。
- MGU-HによるEブーストでコンプレッサーが作り出す圧縮空気を確保
- タービンの排気抵抗を減らしてエンジン出力を増加(憶測数値約30~40ps)
バッテリーより二つのモーターにエネルギー供給するため短時間しか稼働できません。この稼働は空気抵抗が増加する200~300km/hの間に使用される事がおおいとされる。
MGU-Kは加速時にも発電可能
一般的なハイブリッドカーは減速時にしか発電していませんが、このF1においては加速時にも発電する設定が存在します。主にはチャージラップと呼ばれる予選アタックラップ前に4MJのバッテリーをフルチャージしておく時に使用されます。
エンジンパワーを犠牲にして発電するため、燃費が悪くなりますが予選においては燃料使用量制限がないので問題にはなりません。通常のラップ時に一部使用する場合もあるようですが、タイムに影響を及ぼさないポイントでの限定的なものになります。
難解なF1パワーユニット開発
エンジンと2つのモーターによる、パワーユニットの稼働は各々の出力調整などを踏まえると、数限りなく存在し各コースにあった最適な稼働を見つけるのは簡単な事ではありません。すべてプログラミングしてマシンのステアリングで設定変更できるようにしなければならない。(ドライバーのみが操作変更できる。)
単純に各々のパーツが最高の物でも、最適な設定を構築できなければ意味はありません。
レーシングハイブリッド技術自体が門外不出のものであり、各メーカーは威信をかけて研究開発しています。
この説明でF1パワーユニットの実情が少しでもお解り頂ければ幸いです。
上記リンクには国内の規則の他にF1規則もあります。もっと詳しく知りたいと言う方はPDFファイルをダウンロードしましょう。私はPCはもちろんスマホにもダウンロードしてあります。
数十年前、タイレル(ティレル)6輪車やロズベルグ、マンセルの活躍等が載った雑誌で
心躍らせて以降、概ね継続的にF1に関心を持っておりましたが、
いまさらながら自身がF1初心者であることを認識しました。
こういう記事はありがたいですね。
直流モーターは(これに限らず磁化されたものを回転すれば)、
順方向に回しても発電します。
逆回転させると+-が逆の起電力を生じます。
順方向に回した際の抵抗力と、その際の発電の利用は、
電車の「回生制動」として昔からある技術の延長ですね。
あ、ありがとうございます。
今気づきました。電子的にプラスマイナスを逆にすればいいだけですね。
気になるのは、市販車にこれが応用できるか、ですね。 まあ、応用できるならホンダはじめF1参戦メーカーがすでにやってるだろうって実もフタもない結論もあるんだけど、HCCIを最初に市販したのはマツダだったりと、市販車とレースカーが違うんだって話もないわけじゃないし。
現状はBMWのみですもんね。
利点を見いだす研究が終わった頃には、市販車はほとんど電動化になってるかも。
こんにちは
お久しぶりです
分かりやすい図表有難うございます
こうして見させていただくと、MGU-Hの使い方が重要なのがよく分かります
MGU-Kの出力も無制限にしてしまえば面白いのになあとも思いますが…
どのエンジンメーカーも、今必死で開発しているでしょうが、ホンダは来年が本当の勝負所
でしょうね。
チャンピオン争いは難しいかもしれませんが、トップ争いをして貰いたいです。
レッドブルとの共同戦線が本格化して、ホンダを取り巻くあらゆるレース環境が変化していくでしょう。
2019年はその始まりの年となり、絶対に成功させなければなりません。少なくとも2勝はしないとならないでしょうね。
2018年いっぱいかけて実戦テストさせてもらった事は、大きな財産です。
現時点で2019シーズン始まりのパワーはもう出来上がっているはず、ルノーの伸びしろも気になりますが、ホンダのやるべきことはまだまだ多い。
ここに書き込んで良いものか 迷いましたが 質問です。
MGU-Kの 作動方法に 制限はあるのでしょうか。
出力については、規定が有りますが 回収方法にについての 記載は 減速時に 回収と なっています。
例えば ドライバーが任意に 回収操作はできませんか?
スタート時や コーナー立ち上がり時に リヤのスリップ対策に使えそうな気がします。
もうひとつ ホンダエンジンの 低速・減速時の ブブブブと言う 独特の音ですが 気筒停止でも やっているんでしょうか?
MGU-KやMGU-Hに作動条件はありません。エネルギーの流れる方向と数値さえ守れば、いつでも好きな時に作動させていいのです。(減速時に回収するのが一番効率が良い、加速時だと燃料を消費する発電機となります。)
ERSエネルギーの流れと言う以前書いた記事をご覧ください。
ここにホンダPUのテレメトリー記録があります。
加速のアクセルが全開になるまでのわずかな時間でKからエネルギーを取り出して、ESに送ったり、MGU-Hを介してESへ送ったりしています。エンジンモードは色々あり、フルパワーや回生モードなんかも用意されてます。ドライバーはステアリングでそれらを選択しています。
気筒休止は点火カットとなり、そのようなプログラムはトラクションコントロールに抵触する可能性があります。エンジンのマッピングについての細かなレギュレーションは一般公開されていないので、あの音を紐解くのは難しい。
メルセデスとホンダが採用しているスプリット式(吸気タービン、MGU-H、排気タービンという配置)を2019年現在でもフェラーリやルノーが採用しない(手を出さない)理由はあるのでしょうか?
一時期、将来のレギュレーション変更でMGU-Hの廃止やツインターボ化が言われたことあるので、それも考慮しての?
吸気タービンが排気タービンと離れているので、吸気が高温になりにくいので小さいインタークーラーが使えて車体のスペース節約でも有利と思うのですが、
スプリット式は、吸気タービンと排気タービンを離して長いシャフトでつなぐ(その間にMGU-H挟む)ので、高速回転しているシャフトが共振で耐久性などの難しい技術との事ですが、
各チームのレイアウト(ラジエーターやインタークーラーなどの熱交換器の配置)考え方や空力パッケージの考え方の違いとは思うのですが、デメリットよりもメリットが上回るように思うのですが、いかがでしょうか?
それでも2019年フェラーリはコンパクトな車体にまとめあげてインダクションポッド入口も全チーム中、最も小さいので、あえて変更することはないのですが、
それと比べてワークスルノーのボリューム満点な車体は、同じルノーのパワーユニット搭載したマクラーレンよりも大柄に見えます。
いかに昨年のレッドブルが、上手くルノーパワーユニットを搭載したRB14が感心させられます。今年、ホンダパワーユニット搭載車RB15と見比べても、それほど大柄には見えません。
レイアウトについては当初はセパレート式の方が熱管理が良いと言われてきましたが、5年たった今ではそのアドバンテージは無いですね。
逆に今ではMGU-H、TC単体での交換がすぐにできないデメリットの方が大きいような気がしますね。
シーズン中の改良もTCのサイズ変更は簡単になるしなぁ。
ホンダ、ルノーが遅れている点、トップPUのフェラーリやメルセデスから見れば空冷インタークーラーじゃないかな?
空対空だと走行風の違いで温度変化が激しい、空対水+水ラジエターだとラジエターの水圧調整などで一定温度管理が楽になる。
今年のウィング拡大と燃料量+5kgでパワーセンシティビティは上昇したから、最大パワー(最大エネルギー量が多い)が多い方が有利になっている。
2014年から現行のパワーユニットが採用されて5年の歳月が経過したのですが、初めてメルセデスのパワーユニットの仕組みが紹介された時は、これまで他には例の無い画期的なシステムで衝撃受けたのですが、フェラーリパワーユニットにも性能的に抜かれて、すでにアドバンテージが無いですよね。カスタマーチームのウィリアムズ、レーシングポイント(旧フォースインディア)の成績も悪い。
安定した落ち込み少ない性能と年間3基だけで凌ぐところは、優秀ですが。
各ユニット(TC、MGU-H)のメンテナンス交換性が悪いのですね。セパレート式(スプリット式)は。
しかし、やっとフェラーリは最強パッケージを手にしたので、来シーズンは、いよいよタイトル奪取に本気で取り組む体制造りは出来たかと思うのですが(ベッテルとルクレールのチームオーダー問題が心配ですが)
一方、レッドブルホンダが、シンガポールGP以来伸び悩みでパワーユニットに負荷厳しい高地のメキシコGPでは難しいですが、そろそろオーストラリアGPの再来と行きたいところですが(もうフェルスタッペンのフラストレーションが溜まっているので)、3勝目(最低でも3位表彰台以内)はここしかないです‼️
メルセデスがコンストラクタータイトル決めていますが、ドライバータイトルが決まっていない(ハミルトンとボッタス)状況で、何かが起きる波乱(日本GP優勝のボッタスがこのままハミルトンにタイトル譲らない)に乗じて。
熱交換器のラジエーター、インタークーラー、オイルクーラーの配置(インダクションポッド内のセンタークーリングやサイドポンツーン内)は、複雑ですが色々組み合わせの可能性ありますね。
どのパッケージにしても、あちらを立てれば、こちらは立たずで、どうトレードオフして最適化するということですよね。
来年2020年シーズンは、テクニカルレギュレーションの変更は無いので、あと残り4戦で車体、パワーユニットともに、どれだけアップデート出来るか?見ものです。
紹介して頂きましたフェラーリパワーユニットの参考サイトで、フェラーリの市販車に実際採用されてるのかな?、吸気タービン用と排気タービン用それぞれに独立してMGU-H(電動モーター)配置の特許図面を見たのですが、
これを現行F1パワーユニットに採用すると、レギュレーションに抵触してしまうでしょうか?(実際のレギュレーション詳しくないので、すいません)
抵触理由と思われるのは
①パワーユニット1基に対して、MGU-Hも1基でないと使用してはいいけない(2個以上使用はアウト)
②TCの吸気タービンと排気タービンは、機械的に接続していないといけない(離れていても常にシャフトで繋がった状態)
グレーゾーンなんですが、
①は、外観は1個のMGU-H見なしだけど、中身が発電用と出力用に分かれて実質2個でどうかと?監視センサーをパスした噂のフェラーリのツインバッテリーのように
②は、レイアウト上、クランク軸上部のVバンク間に吸気タービンと排気タービン、それぞれの中心線が同一直線上で並んでいれば、機械的に接続していなくても良いと解釈してました。
そこに目をつけていたのですが。
①②の条件、
両方共にOKでないと成立しませんが、
この技術がなるほど‼️と思ったのは、MGU-Hを排気タービン側には発電だけ、吸気タービン側には出力だけの独立した役割として、MGU-Hの2個使用で複雑にはなりますが、色々きめ細かい制御が出来るので面白いなと思いました。同時タイミングに発電と出力を行うなど。
現行の1個だけのMGU-Hでも、発電と出力を兼ねているので、2個使いする必要ないと思うのですが、
セパレート式の耐久性問題(長いシャフトで連結)から解放されるので、機械的トラブルもリスク少なくなります。が、
電気的トラブルは逆に増えるので、MGU-Hの耐久性、信頼性次第でしょうか。特に排気側タービン直結のMGU-Hは熱対策要求される。
私が言うまでもなく、レギュレーション違反に該当していなければ、すでにフェラーリが採用している技術ですよね。
まだ、内燃機関の占める割合多いですが、電動化の割合を増やす許可を与えて欲しいと思っています。開発コストは上がりますがパワーユニットの可能性が、もっと広がるかと思います。
長文になって申し訳ありません。
視野狭くて知識が少ないため、広い知見で御教授を頂けますと幸いです。
宜しくお願いいたします。
MGUの中身については、全世界の一般人が知らないレギュレーションです。
MGU自体の詳細規則は公開されていません。
私がレギュ外で知っている事は、MGU-HはDCモーター、MGU-KはACモーター(3相交流)と言う事ぐらいです。
最近タービン最高回転数120,000rpmがF1公式サイトで公開されたぐらいです。MGU-Hは125,000rpm
モータースポーツ諸規則(JAF)
JAFは毎年F1レギュレーションを翻訳してくれています。
5.1.6 過給は、エンジンクランクシャフトに平行なシャフトアッセンブリによって、車両中心平面から25mm以内にて、1つのみのシングルステージ排気タービンにつなげられる、唯一のシングルステージ圧縮器の使用によってのみ、発生させることができる。そのシャフトは、シャフトアッセンブリ、圧縮器およびタービンが常に共通の軸について、同じ角運動速度で回転することを確実にするよう設計されていなければならず、モータージェネレーター熱ユニット(MGU-H)はそれに直接連結することができる。シャフトはその他いかなる装置とも機械的につながることはできない。
まずはレギュレーションを読んでイメージを作るところから始めてみましょう。
F1技術を詳しく知りたいと思う人は、全世界共通で必ず通る道です。
新しい発想は楽しいです、でもルールが順守されていることが大前提です。
ご面倒お掛けしました。
F1ギュレーション規則のファイル、一般でも閲覧出来るのですね‼️
ありがとうございました。
これを見れば、一目瞭然です。規則書には、目を通さないとダメですね。
MGU-HとMGU-Kは、それぞれ直流DCと交流ACとタイプ違うのですね‼️
セパレート式に思い入れ、思い込みが強すぎて、先走り過ぎました。
レギュレーションに合致しなければ、ただ自己満足に過ぎないです。
内燃機関V型6気筒1600ccの
Vバンク角度9O度指定は知っていましたが、シリンダーのボア直径80mmまで指定されていたとは知りませんでした。
他にも知っていない規則内容が記載されてるので、時間かけて読みます。まずは、それからですね‼️
いつの日になるか分からないですが、パワーユニットの詳細画像が公開されてMGU-Hの構造が見られると良いです。
いえいえ、知識が非常にあるのに、もしやと思ってリンクを貼りました。
F1チームには専門のレギュレーション解析班が居て、抜け道(グレーゾーン)を常に探しています。
良い子ちゃんだと勝てない世界です。
そういう面で、モータースポーツという世界は本当の戦争のようで、情報戦、ハイテク戦など色々な要素が入り雑じって、結果勝利を求める非情な一面あるのですね。恐ろしいです。
過去には、凄いアドバンテージを手に入れたマシンを獲得してライバル、チームメイトを出し抜いてワールドチャンピオンになったドライバー(名誉のために名前は伏せますが)もいました。
逆に、策に溺れ過ぎて失敗して業界を追放された者もいましたが。
これも勝てば官軍、負ければ賊軍というのでしょうか?