フェラーリのパートナーであるマーレが、ジェットイグニッションなる特許を持っていて、それをF1エンジンに応用している。
ホンダも今年マルチジェットインジェクターなる技術を投入している。
どんな技術なのか紐解いていきたいと思います。
4サイクルエンジンの燃焼
まずは通常の4サイクルエンジンの燃焼方式を記載しておきます。
吸気、圧縮、燃焼、排気を行うため4サイクルとなります。燃料の噴射は1回となっています。
マーレのジェットイグニッション
フェラーリと提携しているマーレの「ジェットイグニッション」のメカニズムは、吸気行程で燃料を噴射して圧縮し、副燃焼室で燃料に点火した火炎を主燃焼室に放出して点火するとなっています。
特許の出願は2011年となっており公開は2012年です⇩
Turbulent jet ignition pre-chamber combustion system for spark ignition engines US 20120103302 A1
マーレのホームページの記述はこちら
上図が全体の構造、下図がピストン内上部の形状になります。
通常のエンジンと同じように空気と燃料が混ざった混合気を吸気しそれをピストンで圧縮します。
次に副燃焼室で点火した燃料を6つある穴(用途により4~8)からシリンダーに放射して主燃焼室を爆発させます。
点火した燃料を放射(火炎放射みたいな)する事で燃焼速度を上げ、燃焼効率をアップさせ、プラグ点火より18%も燃焼効率が上がるとなっています。
特にこの副燃焼室の理論がこのシステムの肝になります。
通常のプラグ点火だとどうしても1点からの燃焼になるので燃焼スピードは上がりません。希薄化した燃料はなおさら燃えにくいため不完全燃焼になりやすい。
それをすでに燃えさかる火炎で点火する、しかも四方八方から燃やす事で燃焼スピードを上げるわけですね、いやはやすごい技術ですね。
F1レギュレーション違反?
しかしこのマーレの技術だとインジェクターが2つ必要で副燃焼室が必要になる、また直噴ではなくなるためこのままではF1のレギュレーション違反となるはずです。
フェラーリではこの技術を使用しているとされているので、何らかの方法で副燃焼室状態を作り出し火炎による点火を実現している事になります。
F1ではまず第一に直噴である事とインジェクターが1つとなっているのでこのジェットイグニッションをどのように再現するのかが焦点となります。
F1に適合させたジェットイグニッション考察
マーレのジェットイグニッションの点火システム・ピストン部分を拡大したのが下図になります。
副燃焼室があっては違反なので、インジェクターとプラグをそののまま下げます。
ピストンが上死点になった時に、副燃焼室が現れるようにシリンダー、ピストンを加工して、隙間をつくりその隙間から火炎放射する。この隙間は全方向に空いてる訳ではなく、マーレみたいに6~8方向部分にだけ穴状の隙間が現れるように加工すればいいのではないかと思います。
1本のインジェクターで吸気行程で一度燃料を吹いて、点火時にも燃料を吹いて火炎を作りだして点火させるという発想ですが果たしてこんなんで上手くいくのか・・・。
このあたりまでが素人考えの限界です(泣
※追記:結局のところこの考察は無駄でした。副室は気孔によって繋がり燃焼室の一部とみなされているようです。
ホンダのCVCC技術
ホンダもこのような技術は知っているはずです。
ホンダ自身も1973年にCVCCなる副燃焼室をもつエンジンを市販車で投入しています。希薄化した燃料は燃えにくく不完全燃焼が起こりやすいために排気ガスに不純物が多くなり社会問題となっていました。
それを解決するために火炎で確実に燃やす仕組みをもう40年以上前にホンダは考えていました。
しかし1980年代前半を境にCVCCエンジンをやめています、当時は燃料供給方式がキャブレターから電子制御インジェクターに変わる過渡期でした。
電子制御で燃焼制御が確実にできるようになり排気ガス・燃費の問題を解決できるようになったため、やめてしまったようです。
ホンダF1のマルチジェットインジェクター
ホンダがF1エンジンに採用したとされるマルチジェットインジェクター技術は、マーレと似たようなものになるはずです。
メルセデスもこの副燃焼室の理論を2014年後半に取り入れているとの事ですので、これを解決しなければパワーアップと燃費改善は両立できないと言う事ですね。
点火時に極少量の燃料を噴射して火炎を作り出し、燃焼させているのは間違いないと思います。
開幕戦後にハード面を変更しなければ解決できないような事を長谷川さんが言っていましたので、燃焼室形状変更と500barもの高圧力のインジェクターをうまく制御する事が今のホンダの課題です。
時間さえあれば解決できるはず、それまでにマクラーレンが待ってくれるかどうかが心配ですけどね。
提携や外部エンジニアの引き抜きを拒み続けるホンダに未来はあるのか・・・すごく心配です。
ICEに関するレギュレーションに疎く素人の憶測に過ぎないことが前提になりますが、マーレのコンセプトとF1の接点は熱効率の向上(燃費改善)、つまり希薄燃焼とノッキングの調和技術にあるとすれば、副燃焼室禁止とシングルインジェクターの条件を満たす方策として「2段混合~多段混合」が考えられます。量販車ですがミツビシGDIは国内メーカーとして開発先駆者になります。一方、ホンダは特に欧州メーカーと比べ筒内噴射は最後発でもあり障壁はかなり高いはずです。スワールの発生・ピストン頭部形状(球形燃焼室)・インジェクター仕様の組み合わせなど、膨大な工数を要します。ICE開発当初より先行着手が必須でしょう。その上MGU-H技術がおそまつ? ときていますからモノにできますかねぇ。
コメントありがとうございます。
ホンダはもうこの際マーレに提携を頼んで・・・無理でしょうけど。
フェラーリがしたようにお金積んで技術者を引き抜きはしないでしょうし。
拠点が日本にある時点でエンジニアの引き抜きは難しいですからね。
先の見えない話です。
ジェットインジェクター技術は今年1年いっぱいはかかると思います。
おっしゃる通りです。マーレと提携、ピストンセットも製作依頼が早道です。個人的な関心はスチール系ピストンにありますが。最低重量規制があるようですから信頼性が高いピストンの具現化を狙ってみたいところです。アルミ系は吹き抜けトラブルに見舞われることがあるようですから。「組んだら全開」がF1です。しかもシーズン4基をクリヤしなければなりません。
「組んだら全開」❓。スロットルを戻したなら、断熱膨張で燃焼室内及びビストンの温度はあっという間に数十度低下します。スタートからチェッカーまでフラットアウトはあり得ない。でしょ。F1の全開時間なんて10秒も無いでしょ。
上海なんかは”連続”全開状態が15秒以上続くし、スパなんかはオー・ルージュ含めて20秒オーバー
確かに温度は下がるけれど負荷率は高いですよ、普通に
昔と違って今はエンジン数基で年間戦うんで耐久性が必要です
「組んだら全開」は慣らしとかはしないですよって意味でして、常時とかの意味ではないですね。
匿名さん、全開小僧さんここはひとつ穏便にお願いします。
すべてはホンダが不甲斐ないせいですのでw
どうも現在のHONDAは若手エンジニアが机上の論理をエンジン単体に注力し過ぎて勝つ為の「レーシングマシン」を創り上げると言う強い目的意識が感じられない
ある目標に対しての最善で効果的な解決策は限りなく1つに集約されるわけで、サイズゼロ・コンセプトもそうだが他社がそのコンセプトを取らなかったのにはそれなりの理由があったわけです
少なくともオリジナル技術にそこまで固執するのであれば他社が避けたリスクを回避出来るだけの技術的なブレークスルーを取得済みであるべきでそれが技術開発だと思う
レースは野外で技術も体力も知力も消耗する競争なのでデータでは決して勝てない
マルチシリンダーにしたらバイブレーションが出たなんて理由は技術者の言い訳以外の何物でも無いし現在のHONDAをよく表してると思う
コメントありがとうございます。
仰られる通りだと思います。現在のホンダは早く結果を出す体制ではありませんね。
ホンダのやりたいことは日本国内で日本のエンジニアで作り上げる事なんでしょう。
そこだけはブレないですね。
これだけ文句言われて罵倒されてもそこだけは頑固にこだわっているようです。
管理人さん、ご無沙汰しています。
低迷するホンダの状況を説明する「グループシンクに関するコラム」に共感し、あらためて「グループシンク・モデル」を作成、各項目をチェックしてみました。
先行条件である凝集性の高い集団、組織構造の欠陥、原因となる前後関係、その結果として現れるグループシンクの兆候と意思決定に関する該当項目が多数見られ、結局成功確率が低い現状に帰趨しているようです。すべて自前で賄うやり方は、先行条件である「組織構造の欠陥」に含まれる「隔絶されたグループ」に該当します。
ホンダは「グループシンク」を地で行っているムキがあるようです。
赤信号、みんなで渡れば怖くない?
心理学的考察コメントありがとうございます。
ホンダとしては、そういった部分も含めて作り上げようとしてるのではと思います。
確かにね。
実際にそうなのかは分かりませんが、
開発担当者/セクションでは、単気筒レベルで数値クリアして、できた、意外に簡単に達成できた、と思った瞬間に思考も手も緊張感も止まったはずで、工程表にチェックして次のセクションに送り上司に報告した。上司もそうか以外に難しくなく簡単な技術なんだなと真に受けてニコニコ顔でいた。しかし、標準工程でV6に組んで起動してみたらとんでもなかったです、それに気づいたのが合同テストの約3ヶ月前でした、だなんて。
世界最高峰でしかも大きくビハインドを負っていて窮地に追い込まれているはずの立場でありながらそれを平気で言えてしまうとこが、リスク管理の無さや緊張感なく感覚がずれている気がしてならない。
それでも、単一的な視野/観点になりやすい自前主義にこだわり続ける(もっとも最新ではこの旗はおろしたのかな?)のは、本当に大丈夫なんだろうかと大きな危惧を抱いてしまうのは自分だけではないと思います。
これを聞いた他のPUメーカの失笑ぶりが眼に浮かぶ次第です。