F1マシンにおいて車高の変化は空力を大きく変える事ができる、過去には電子制御アクティブサスペンションが登場して、路面とフロアの距離を一定に保ちダウンフォースを安定させたり、ヒーブサスペンションと呼ばれる上下動にだけ作用するものを2段階の油圧やガスで制御している。2018年にはヒーブサスペンションの2段階制御が禁止された。
2019年のフロントウィング規制により、各チームはフロントダウンフォースの獲得のため試行錯誤しているが、単純にフラップ面積を拡大すればドラッグが増加する、更にはアウトウォッシュが減りマシン全体の空力に影響を及ぼす。
コーナリング時だけ何とかできないかと思いついたのが、POU(pushrod on upright)を最大化する事でステアリングをきっている時だけフロントの車高を下げる事。
これを大まかに「トリック・ステアリング・サスペンション」、「トリック・サスペンション」と呼んでいる。
トリック・ステアリング・サスペンションの機構
上画像の左側のようにタイヤの舵角回転中心線より内側にサスペンションを押すプッシュロッドをセットする。これをオフセットと言うのですが、10年前は5~8mmだったものが今ではその10倍以上の数値になっています。
オフセット数値を変化させる事で、ステアリング軸とプッシュロッドのノーズ付け根までの距離を短くする事が出来ます。その短くなった分だけ車高が下がる事になる。
このセッティングが、注目を集めるきっかけになったのがモナコのヘアピンです。メルセデスのフロントアームが極端に下がっているのが発見されています。
Así es como funciona la suspensión “Pushrod On Upright” en la curva 6 (la del hotel) en Mónaco.
Elevando los ejes y permitiendo ampliar el radio de giro de las ruedas para tomar la curva más rápido que los demás. pic.twitter.com/FSkHudtVrE
— 🏁【ALERTA RACING】🏁 (@AlertaRacing) 2019年5月23日
この微妙な車高変化によりフロントが下がり、マシン全体が前傾姿勢になり、ダウンフォースが増加するという仕組みです。
ステアリングによる車高変化数値は不明
上の動画を見た時は、は!レギュレーション違反だろっと思っていました。2017年にステアリングによる車高変化は5mmまでと言う情報があったからなのですが、これは間違いであった。
- F1i.frでは15°の回転で5mm未満
- racefans.netでは12°の回転で5mm未満
マシン解析が詳しい海外サイトでも数値が違っている、またこの回転と言うのはフロントタイヤの舵角の事だと思われます。最初はドライバーが握るハンドルの回転かと思ったのですが、ギア比で変更できてしまうから。
なぜ数値が違うのか?これは一般公開されているレギュレーションの他にFIAによる技術指令があるからです。これは各チームにのみ伝えられる事であり、行き過ぎた開発に歯止めをかける指令となっています。
本命は12°で5mm未満だと思います。著者がクレイグ・スカボローさん、この方F1のあらゆる技術規定に精通していて、色々な情報が本当に信用できるものばかりだからです。
POU(pushrod on upright)の実験
オフセット数値を変更したら何故距離が短くなるの?って方向けに簡単に画像で説明します。
正面から見た上の画像や絵ではわかりにくいですよね。家にあったものを使ってプッシュロッド部分を真上から見たように金具を動かしてみました。黒いのがタイヤ、白いのがプッシュロッドだと思って下さい。
オフセット無し⇩
アイフォンで撮ってカメラ固定しなかったので角度やらサイズやら無茶苦茶ですいません。オフセット無しはもちろん距離の変化はありません。
オフセット有り⇩
タイヤの舵角回転中心を固定、その線上にプッシュロッドの付け根位置を固定すると、ちゃんと距離が短くなりますね。サスペンション自体が縮まって車高が変化するのではなく、アームとホイールハブのみで車高変化を実現します。
レッドブルのPOUを捉えた動画
Nice video via #f1technical #techf1 @redbullracing pic.twitter.com/VyhBNmzEhI
— Salvatore Asero (@Graftechweb) June 27, 2019
これは停車してステアリングを切っているところでしょうね。荷重変化が無いのにフロントウィングが路面に近づいているのがわかります。
これ、旋回時の外側はどれぐらい動くんでしょうね?
タイヤのセンターの延長上にピボットがあれば理論上内側も外側も同じだけ動く事に成るはずですが、それだとコーナリング中は外側のタイヤはつぶれたり少ないながらもロールしたりするでしょうから外側の車高変化は内側に比べて少なくなる位置にマウントされてるのかな?
アブソーバーとかトーションバーのレイアウトを考えるとブレーキング時の路面追従性とかどうなってるのか?です。
ピボット部分は物理学的に同じだけ動きます。
内側と外側の荷重の違いについては、ヒーブサスやアンチロールバーが作用するのでしょう。
ウィリアムズですら簡単にオフセット量を増加させている事から問題は無さそうです。
実際週末を通して600~700km走って壊れないものですから、かなーり硬いもの。
パワステ無いとハンドルは回せませんよ。